スペサルティンガーネット

鉱物種名:満ばんザクロ石
化学組成:Mn₃Al₂(SiO₄)₃
結 晶 系:立方晶系

図1 スペサルティンの結晶
愛知県豊川市久田野産、左右1cm

ガーネットは色彩豊かな宝石です。「ガーネット(ザクロ石)」は鉱物のグループ名で、成分(化学組成)によって十数種に細分されています。その中でスペサルティンは、パイロープやアルマンディンと並び、赤色系ガーネットの代表的な種です(図1)。スペサルティンはマンガンとアルミニウムが主成分で、和名は満ばんザクロ石。「満」はマンガン、「ばん(礬)」はアルミニウムのことで、成分を表す名前といえます。日本では主にマンガン鉱床に産します。ここでは愛知県三河地方に点在する産地の美麗な結晶を紹介します。

豊川市久田野産スペサルティン

かつてマンガンを採掘した小規模な鉱山があり、その近傍の採石場から鮮やかな橙色のスペサルティンを産しました。光沢と透明感が共に優れ、そのままでもジュエリーにして楽しめるのではないかと思えるような結晶もあります(図2)。十二面体や二十四面体の結晶がみられます。

図2:母岩上のスペサルティン結晶
久田野産、左右1.5㎝

西尾市石塚峠産

久田野と同様に、マンガン鉱山の近くの採石場から、主に二十四面体をした結晶の集合体を産しました(図3)。

図3:石塚峠産スペサルティン
愛知県西尾市、左右4㎝

設楽町田口鉱山産

田口鉱山は東海地方最大のマンガン鉱山であり、第二次世界大戦後に本格的に操業して1962年に操業を終えています。表山、裏山などの鉱床があり多種のマンガン鉱物を産しました。スペサルティンは石英やロードナイト(バラキ石)などに埋没した二十四面体の結晶で産します(図4,図5)。採掘場跡周辺には、低品位の鉱石や廃石が落ちていることがあり、これらを割るとまれに結晶が顔を出します(図6)。

図4:田口鉱山表山鉱床産、石英中のスペサルティン
愛知県設楽町、左右4㎝
図5:田口鉱山裏山鉱床産スペサルティン
左右2cm
図6:田口鉱山裏山鉱床のマンガン採掘場跡と
散乱するマンガン鉱石

石橋 隆

一般社団法人地球科学社会教育機構 理事長。
1977年長野県松本市生まれ。
京都にある石の博物館、益富地学会館の理事・主任研究員や大阪大学総合学術博物館の研究員を経て、2024年より現職。地球科学の普及や研究家への支援活動に従事するほか、鉱物や地質の研究を行う。
著書に『プロが教える鉱物・宝石のすべてがわかる本』(ナツメ社)、監修に『世界を魅了する美しい宝石図鑑』(創元社)などがある。

石橋先生の書籍情報

  • 『宝石図鑑』キャリー・ホール著, 石橋隆監修(創元社,2023年)
  • 『日本の国石「ひすい」―バラエティーに富んだ鉱物の国』日本鉱物科学会, 石橋隆分担執筆(成山堂書店,2019年)
  • 『鉱物 ―石への探究がもたらす文明と文化の発展―』石橋隆は監修と執筆(大阪大学出版会,2019)
  • 『史上最強カラー図解 プロが教える鉱物・宝石のすべてがわかる本』下林典正・石橋隆監修