スモーキークォーツ

鉱物種名:石英
化学組成:SiO2
結 晶 系:三方晶系

図1 スモーキークォーツ ファセットカット

岐阜県中津川市蛭川田原、径8mm

スモーキークォーツは煙水晶ともよばれ、クォーツ(鉱物種名は石英)のうち黒褐色から灰褐色のものをさす宝石名です(図1)。結晶形は六角柱で、先端は六角錐状(図2)。世界各地で、主に花崗岩(かこうがん)地帯に産します。日本にも各地に花崗岩がみられ、スモーキークォーツを産します。山梨県甲府北部の黒平地域、岐阜県中津川の苗木地域、滋賀県大津の田上山などが代表的産地で、特に岐阜の苗木地方では花崗岩の採石場から多産しました。

図2:黒色を帯びた石英の結晶
蛭川田原産、長さ3 ㎝


苗木地方のスモーキークォーツ

岐阜県東部の中津川市や恵那市周辺には花崗岩がみられ、木曽川の北側の苗木地方では1990年代の終わりころまで石材用に盛んに切り出されていました(図3)。

図3:岐阜県中津川市蛭川
手前を流れるのは木曽川

苗木の花崗岩は、地下でマグマが冷えて固まることによって約6700万年前にできたと考えられています。花崗岩にはしばしば空洞があり、空洞の内壁にスモーキークォーツやフェルスパー(長石)などの結晶がみられます(図4,図5)。石材を採石する際に、副産物的に多くの結晶鉱物を産し、当地の標本は国内外の博物館でも展示されています。

図4:採石場で割り出した石材にみられるスモーキークォーツ
左右10㎝
図5:スモーキークォーツとフェルスパー
左右3㎝

苗木地方には、スズやタングステンなどの金属を採掘した小規模な鉱山も多数あり、鉱山の石英脈からもスモーキークォーツが産しました(図6)。

図6:スモーキークォーツの群晶
中津川市日曹高根鉱山産、左右4㎝

スモーキークォーツの発色

無色の水晶に人工的に放射線を照射すると黒や灰色しなることがわかっています。スモーキークォーツは地中で自然放射線を浴びることで発色すると考えられ、花崗岩中のウランやトリウムなどを含む鉱物が発する微量の放射線が関与している可能性があります。

石橋 隆

一般社団法人地球科学社会教育機構 理事長。
1977年長野県松本市生まれ。
京都にある石の博物館、益富地学会館の理事・主任研究員や大阪大学総合学術博物館の研究員を経て、2024年より現職。地球科学の普及や研究家への支援活動に従事するほか、鉱物や地質の研究を行う。
著書に『プロが教える鉱物・宝石のすべてがわかる本』(ナツメ社)、監修に『世界を魅了する美しい宝石図鑑』(創元社)などがある。

石橋先生の書籍情報

  • 『宝石図鑑』キャリー・ホール著, 石橋隆監修(創元社,2023年)
  • 『日本の国石「ひすい」―バラエティーに富んだ鉱物の国』日本鉱物科学会, 石橋隆分担執筆(成山堂書店,2019年)
  • 『鉱物 ―石への探究がもたらす文明と文化の発展―』石橋隆は監修と執筆(大阪大学出版会,2019)
  • 『史上最強カラー図解 プロが教える鉱物・宝石のすべてがわかる本』下林典正・石橋隆監修