日本で採れる宝石鉱物について、前回に引き続き、地球科学社会教育機構理事長である石橋隆先生に日本の宝石鉱物についてお話を伺いました!

日本産のアメシスト/紫水晶について

アメシストはクォーツ(鉱物種名:石英、自形結晶のものは水晶)の宝石種のひとつで、紫色のクォーツをさします。日本国内には各地に水晶を産しますが、その大半は無色または白色です。また、花崗岩中に産する水晶は多くは黒色のスモーキークォーツ(煙水晶)です。アメシストは珍しいうえにわずかで、残念ながら宝飾に用いられる程度に結晶が大きく、鮮やかで濃色のものは産していません。しかし、日本産のものも鉱物標本としてみた場合には産地ごとに産状や色調、結晶の形状の特徴が異なり、愛らしい結晶がみられます。ここでは、いくつかの産地のアメシストを紹介します。

10cm超えの結晶!

知名度が高い産地として、まず挙がるのが宮城県の雨塚山。ここでは江戸時代にアメシストを掘っており、明治以降にも印章の材料として採掘されました。火山岩である流紋岩中の石英脈に産し、やや淡いが鮮やかな紫の伸長した結晶で(図1左側)、10cmを超える長さのものも産しました。次に、栃木県鉛沢産も明治時代から知られます(図1右側、図2)。

図1:アメシスト(左2つは宮城県白石市雨塚山産、右2つは栃木県日光市鉛沢産、最長のもので約4cm)
図2:アメシストを含む水晶の群晶 栃木県日光市鉛沢産、左右約6cm

鉛沢は足尾銅山の近傍で、流紋岩中の石英脈の空隙にアメシストがみられます。結晶は長く伸びるが先に行くに従って細る傾向があるのが特徴です。

結晶が柱状には伸びていない群晶

図3:アメシスト群晶 栃木県塩谷町万珠鉱山産、左右約3cm

栃木県の万珠鉱山では結晶が柱状には伸びていない群晶を産します(図3)。この鉱山は金を目的に採掘し、雨塚山や鉛沢と同様に流紋岩類中の石英脈にアメシストはみられます。これらの産地の他にも金銀、銅などの金属鉱山の石英脈に、しばしばアメシストが産しました。

様々なアメシスト

アメシスト
図4:広島県江田島市江田島産長さ約8mm

アメシストスモーキークォーツ
図5:滋賀県高島市山崎山産長さ約3cm

地下でマグマが固結してできた花崗岩中からもアメシストは産します。冒頭で書いた通り、花崗岩に産する水晶の大半は黒色の煙水晶ですが、ごく稀に煙水晶の一部がアメシストになっていることもあります。(図4、図5)

かわいいアメシスト
図6:山梨県甲府市水晶峠産、紫部分の長さ約5mm

山梨県の水晶峠では、花崗岩に伴う石英脈に水晶の先端がアメシストになった、可愛くて面白い標本も産しています(図6)。

石橋 隆

一般社団法人地球科学教育機構 理事長。
1977年長野県松本市生まれ。
京都にある石の博物館、益富地学会館の理事・主任研究員や大阪大学総合学術博物館の研究員を経て、2024年より現職。地球科学の普及や研究家への支援活動に従事するほか、鉱物や地質の研究を行う。
著書に『プロが教える鉱物・宝石のすべてがわかる本』(ナツメ社)、監修に『世界を魅了する美しい宝石図鑑』(創元社)などがある。

石橋先生の書籍情報

  • 『宝石図鑑』キャリー・ホール著, 石橋隆監修(創元社,2023年)
  • 『日本の国石「ひすい」―バラエティーに富んだ鉱物の国』日本鉱物科学会, 石橋隆分担執筆(成山堂書店,2019年)
  • 『鉱物 ―石への探究がもたらす文明と文化の発展―』石橋隆は監修と執筆(大阪大学出版会,2019)
  • 『史上最強カラー図解 プロが教える鉱物・宝石のすべてがわかる本』下林典正・石橋隆監修