

ブラックパール(黒蝶真珠)
鉱物種名:主に霰石
化学組成:CaCO3
結 晶 系:直方
パール(真珠)は生物が関与して生み出される宝石材で、貝の中で生成されます。真珠をつくる貝は限られた種で、多くは二枚貝。天然の真珠はとても希少ですが、20世紀になって日本でアコヤガイを用いて養殖する技術が確立されたことで広く普及しました。アコヤガイ(阿古屋貝)の真珠が代表的ですが、他にもクロチョウガイ(黒蝶貝)やシロチョウガイ(白蝶貝)などからも得られます。ここでは黒色のクロチョウガイのブラックパール(図1)を紹介します。

沖縄県石垣市石垣島川平湾産
直径約9mm
ブラックパール
黒味を帯びた真珠はブラックパールとよばれます。白いアコヤ真珠を処理して黒くすることもありますが、クロチョウガイの黒蝶真珠は未処理でも黒色です。光の干渉で桃、緑、青などの彩色を放ちます。

開いた内部、沖縄県石垣島産、左右約30cm
沖縄八重山諸島の黒蝶真珠

石垣市石垣島

竹富町西表島
クロチョウガイはインド洋や太平洋の低緯度に分布する二枚貝で、沖縄の八重山諸島あたりが天然分布の北限です(図2)。殻の長径は15cmにも達し、真珠はアコヤ真珠よりも大きく直径1.5cmを超えるものもあります。黒蝶真珠の主要産地は南太平洋のミクロネシアやポリネシアですが、実は世界で初めて黒蝶真珠の養殖量産に成功した場所は八重山諸島の石垣島です。現在も石垣島や西表島で生産されています(図3,図4)。
真珠の養殖

石垣島産,殻長径10cm
真珠は貝の中に入った異物を核にして、貝殻の成分である炭酸カルシウムがタンパク質と共に層状に成長してできます。球状のものが思い浮かびますが、真球真珠の養殖法の確立は苦難の道でした。石垣島でも貝殻の内側に半球状の核を接着して半球真珠をつくる試みがなされた後(図5)、球状の核を殻の成分を分泌する体組織で包んで貝の中に挿入する真球真珠の生産に至りました。
碧玉の緑色

緑の発色は、サンスクリット語で「緑の石」という意味の名をもつ「セラドナイト」という層状鉱物の微細な結晶が多く含まれていることが原因です。

石橋 隆
一般社団法人地球科学社会教育機構 理事長。
1977年長野県松本市生まれ。
京都にある石の博物館、益富地学会館の理事・主任研究員や大阪大学総合学術博物館の研究員を経て、2024年より現職。地球科学の普及や研究家への支援活動に従事するほか、鉱物や地質の研究を行う。
著書に『プロが教える鉱物・宝石のすべてがわかる本』(ナツメ社)、監修に『世界を魅了する美しい宝石図鑑』(創元社)などがある。
石橋先生の書籍情報
- 『宝石図鑑』キャリー・ホール著, 石橋隆監修(創元社,2023年)
- 『日本の国石「ひすい」―バラエティーに富んだ鉱物の国』日本鉱物科学会, 石橋隆分担執筆(成山堂書店,2019年)
- 『鉱物 ―石への探究がもたらす文明と文化の発展―』石橋隆は監修と執筆(大阪大学出版会,2019)
- 『史上最強カラー図解 プロが教える鉱物・宝石のすべてがわかる本』下林典正・石橋隆監修