ジャスパー

鉱物種名:石英
化学組成:SiO2
結 晶 系:三方

図1 : グリーンジャスパー「碧玉」

島根県松江市玉湯町花仙山産、カボション、長径約1cm


ジャスパーはクォーツ(石英)の微細な結晶が集合してできている宝石で、含まれる不純物の違いによって赤や緑、黄など多彩です。それらの中で、グリーンジャスパーを紹介します(図1)。日本では「碧玉(へきぎょく)」とよばれ、各地の安山岩や玄武岩中にみられます。碧玉産地で古くから有名なのは、島根県松江市の玉造(たまつくり)です。

図2:「出雲石」碧玉製の勾玉
松江市玉造花仙山産、現代の品で上下約3.5cm

出雲の国「玉造」の碧玉

日本では緑の碧玉は有史以前から採掘され、勾玉や管玉などの装身具に用いられています(図2)。古墳時代から平安時代にかけて一大産地であったのが出雲国(島根東部の旧国名)の玉造。温泉地として名高い地名ですが、古代の玉作り工房の遺跡が多数あり、生産拠点であったことがわかります(図3)。当地の碧玉は「出雲石」ともよばれます。

図3:玉造温泉をめのう公園から望む

苗木の花崗岩は、地下でマグマが冷えて固まることによって約6700万年前にできたと考えられています。花崗岩にはしばしば空洞があり、空洞の内壁にスモーキークォーツやフェルスパー(長石)などの結晶がみられます(図4,図5)。石材を採石する際に、副産物的に多くの結晶鉱物を産し、当地の標本は国内外の博物館でも展示されています。

花仙山を訪ねる

図4:花仙山の丘陵
図5:花仙山中に散らばる碧玉の欠片


玉造温泉東側の丘陵地が良質の碧玉やメノウの産地で、花仙山(かせんざん)です(図4)。約1500万年前に溶岩が噴出してできた安山岩がみられます。碧玉は安山岩の割れ目を埋める脈で産します。弥生から平安時代、近代にも明治以降に採掘された跡が山中にあり、現在も稀に碧玉の破片が見つかります。

図6:碧玉「出雲石」の原石
玉造花仙山にて、左右約4㎝

碧玉の緑色


緑の発色は、サンスクリット語で「緑の石」という意味の名をもつ「セラドナイト」という層状鉱物の微細な結晶が多く含まれていることが原因です。

石橋 隆

一般社団法人地球科学社会教育機構 理事長。
1977年長野県松本市生まれ。
京都にある石の博物館、益富地学会館の理事・主任研究員や大阪大学総合学術博物館の研究員を経て、2024年より現職。地球科学の普及や研究家への支援活動に従事するほか、鉱物や地質の研究を行う。
著書に『プロが教える鉱物・宝石のすべてがわかる本』(ナツメ社)、監修に『世界を魅了する美しい宝石図鑑』(創元社)などがある。

石橋先生の書籍情報

  • 『宝石図鑑』キャリー・ホール著, 石橋隆監修(創元社,2023年)
  • 『日本の国石「ひすい」―バラエティーに富んだ鉱物の国』日本鉱物科学会, 石橋隆分担執筆(成山堂書店,2019年)
  • 『鉱物 ―石への探究がもたらす文明と文化の発展―』石橋隆は監修と執筆(大阪大学出版会,2019)
  • 『史上最強カラー図解 プロが教える鉱物・宝石のすべてがわかる本』下林典正・石橋隆監修