金を生成する

中世ヨーロッパの錬金術師たちが追い求めた夢です。彼らは鉛や水銀といった「卑金属」を金に変えようと、生涯をかけて実験を繰り返しました。もちろん、誰も成功しませんでした。 その話が2025年、シリコンバレーから出てきました。

2025年に論文が公開

アメリカのスタートアップ「Marathon Fusion」が2025年7月、核融合を使って水銀から金を生成する方法を提案した論文を発表しています。 論文のタイトルは「Scalable Chrysopoeia via (n, 2n) Reactions Driven by Deuterium-Tritium Fusion Neutrons」。「Chrysopoeia(クリソポイア)」とはギリシャ語で「金を作る」という意味で、錬金術の正式な学術用語です。 ただし、発表時点では査読前のプレプリント、つまり「まだ専門家の審査を受けていない論文」でした。現在も学術誌への掲載は確認されていません。 つまり、金が生まれたわけでも、技術が完成したわけでもありません。

生成の仕組み

核融合炉の中では大量の中性子が発生します。その中性子を水銀の一種(水銀198)にぶつけると、不安定な水銀197に変わり、約64時間後に自然と金197へ崩壊する。 この核変換のプロセスを利用するという発想です。 理論上、1ギガワットの核融合炉1基で年間約2トンの金が副産物として得られると試算されています。現在の金相場で換算すれば、約300億円規模の副収益です。 ニューヨーク・タイムズもこの論文を「核融合の経済性を変えうる副次的収益アイデア」として取り上げています。

課題

生成される金には放射性同位体が含まれるため、安全に流通させるには相当期間の保管が必要とされています。著者自身も「経済的な影響の試算はまだ慎重に行う必要がある」と認めています。 夢のある話ですが、まだ夢の段階です。

まるでラボグロウンダイヤモンド

「人工的に作れるはずがない」と言われていたダイヤモンドが、今は技術によって作られています。希少性の定義は、科学の進歩とともに静かに塗り替えられてきました。 核融合による金の量産が現実になる日が来るかどうか、まだわかりません。ただ、錬金術を「馬鹿げた夢」と笑い飛ばせない時代も近いかもしれません!

参考:ITmedia NEWS(2025年7月23日)、arXiv「Scalable Chrysopoeia via (n, 2n) Reactions Driven by Deuterium-Tritium Fusion Neutrons」、The New York Times