むかしむかし、海の底に住む小さな貝は、とてもおとなしくて目立たない存在でした。
ある夜、空の月の女神さまは、海にうつる自分の姿をながめながらつぶやきました。

「海はこんなに広いのに、さびしそう……。」

女神さまは夜ごとにやさしい歌をうたい、海をなぐさめました。

けれど、ある晩、女神さまはもうすぐ旅に出なくてはならないことを知り、名残おしそうに光るしずくをこぼしました。
そのしずくは、海の底にすむ小さな貝の中に落ちました。

すると、貝の中に月の光が宿り、まるくてつややかな真珠が生まれたのです。

月の女神さまが空へ帰ったあとも、真珠は海の底できらきらと光りつづけました。
その光を見た海の生きものたちは元気をとりもどし、貝はたくさんの友だちに囲まれて幸せに暮らしました。

だから人びとは、
真珠を「やさしさ」と「しあわせをよぶ石」と呼ぶようになったといいます。